三年半前に老眼になってから
文庫本をはじめとした
あらゆる紙の本を読まなくなりました
読めなくなりました
仕事で目を通さなければならない資料は
必要部分だけ鬼のように目を凝らして
なんとか読み切って
あとはなるべくパソコンへ添付で送ってもらって
画面を最大限に拡大して読んでいました
本を読みたいという欲求は絶えずありましたが
字が見えない世界というものがとても新鮮で
これはこれで面白いなあなんて
そのままにしていました
その上時を同じくして
息子が生まれましたので
彼との冒険の時間に没頭していました
だが
何よりも
出会うべき一冊と
出会えていない気がしていました
その本と出会うときは必ず来る
そんな確信が自分のなかにはあったので
ことさら焦りもしませんでした
昨年末に
眼鏡スタイリストの藤裕美さんと出会って
新たな視界を手に入れました
それでもステージ以外では
もっぱらパソコン専門
紙の文字とはまだ巡り会っていません
二月に東京から山口へ引っ越すときに
送別会を開いてもらって
そのときに幹事をしてくれた人物から
自作の詩集をプレゼントしてもらいました
元々
いつ読むかはさておき
その本は購入するつもりでしたので
素直にうれしかったのを覚えています
そして
すこしドキッともしました
「もしかしたら、この本かも知れない」
それでもまだ頁を開きませんでした
なぜだか、なかなか開けなかった
そして今回のコロナ騒動があり
七月までのイベントの仕事が
すべてキャンセルになりました
今しかない
今だよ
いま
来いよ
来ないなら
こっちから行くぞ
おい!
うるせーよ
ボケっ
行ってやろうじゃねえか
やるか???
そんな心持ちで
馬野ミキ詩集
『金(キム)』を読みました
ほぼ喧嘩気分で読んだのに
喧嘩のはずだったなのに
泣いていました
涙は出ませんでしたが
涙が出ないからこそ
よけいに泣けるような
言うなれば
心の号泣のような感覚でした
あたたかいとか
やさしいとか
愛だとかを通り越して
体温のある本だとおもいました
わかりやすい言葉から
理解を超えた
安らぎを
感じました
それは
僕がこれまで生きてきて
(もしかしたら生まれる前からかも知れない)
身についてしまった心の傷と
作者の
やはり好むと好まざるとに関わらず
育んで来てしまった魂の傷が
詩という言葉を通して
共鳴したからだとおもいます
そして
こうもおもいました
詩はゴールではなく
ただの出発点でしかない
と
ぜひ
多くの
孤独に
読んでほしい
そんな一冊です
ここからまた
僕の読書生活は
はじまります
馬野ミキ
詩集『金(キム)』
白昼社 刊
https://www.amazon.co.jp/dp/4905000475/ref=as_li_ss_tl?ie=UTF8&linkCode=sl1&tag=url36-22&linkId=8a33e9f9b4ed209282f35ee239c49569&lang uage=ja_JP
*
ご参考までに
今回紹介した本の作者について
10年以上前に書いたエッセイを
掲載しておます
『馬野幹という友人』
桑原滝弥
起き抜けに、
ラジオと、テレビと、電気コンロのスイッチをONにする。
それから、そのままシャワーを浴びる。
いつの間に、シャツとパンツを脱いだのか、
そしていつの間にタオルで体を拭き取り、
ホットコーヒーを入れて、
新しいパンツとシャツを着たのか、
まったく記憶がない。
ラジオではトラフィックインフォメーションを、
テレビでは全国のお天気を、
窓の向こうでは、
もうすでに一日を始めた人たちが街を作っている。
さっき火を点けたはずの煙草は、
気付けば4/5が灰になり、
鳩は騒ぎだし、
朝勃ちは静まり、
しかし、
まだ、
俺は起きていない。
いつの間にか、
過ぎ去っていく尊いひととき。
阿呆面下げて浪費していく、
ある意味贅沢な日々の中で、
いつの間にか、
馬野幹と出会っていた。
「世界中の男たちを全員殺して
世界中の女たちを全員犯したい」
そんなことを、
春の夜の公園を二人で散歩していたとき、
奴は言った。
世間では、奴は詩人と呼ばれていたりして、
偶然にも、俺も詩人と声掛けられたりするが、
不思議と二人で過した時間の中で、
詩について語り合ったことは一切なく、
そのほとんどの時間は、
女と、女と、女と、
セックスと、
それからまた女と、
女にまつわるetc...
の話で占められていて、
ときどき子供の頃の思い出話をした。
毎日ツルんであそぶ友人ではなかったし、
(もとよりお互いそんな友人はもっていなかった)
女の好みのタイプもまるで違い、
(おかげで今日まで殺し合いをしなくてすんだ)
求める理想も微妙に異なった。
(だから奴のことを好きになれたよな)
ここ半年くらいは、
まるで会っていないが、
しあわせなのだろうか。
最近、引越をしたりして、色々と環境を変えたとの事。
また、一切の詩の話を閉ざして、
詩の時間を過したい。
奴はいつも、
わからないことがあると、
「なんで?」
と、二才児のような瞳で、
真っ直ぐに質問をぶつけてくる。
こっちは刹那ドキッとする。
それは、
とても心地の良い瞬間だ。
寝るまえに、
すべてのスイッチをONする。
そして、そのまま寝ないで、
現実の世界を夢とする。
そんなレイプを夜毎繰り返す男。
マノミキ
たとえそれが百万回繰り返された質問だったとしても、
俺はいつも、
いつの間にか、
イッてしまう。
最後にメルヘンをひとつ。
ある地方でのステージを終えた翌日の事。
みんなで朝メシを食っているとき、
「ちょっと買い物に行ってくる」
と言って、
奴はどこかに消えた。
一分後に、携帯電話にメールが届く。
「ごめん。オナニーしてくる」
この"ごめん"の部分に、
ノーベル平和賞を!
【『馬野幹攻略本』2006年刊・収録エッセイより】
*
◇今後の予定
5/16(土)公開
動画「蓬莱座オープンマイクへの道2」
https://www.youtube.com/channel/UCBbIptDqzfYkNO_cqWzKOCw
5/25(月)発行
雑誌「シェルスクリプトマガジンVol.66」
https://www.usp-lab.com/pub.magazine.html
6/20(土)公開
動画「蓬莱座オープンマイクへの道3」
https://www.youtube.com/channel/UCBbIptDqzfYkNO_cqWzKOCw