2017年9月8日金曜日

ぽんちゃん

今年の夏に 
実家の猫が亡くなりました 

三匹いるうちの 
一番年長の雄猫で 
”ぽんちゃん”という子でした 

15年間生きたので 
猫としての寿命を 
まっとうしたことになります 



ぽんちゃんは 
たまに実家にやってくる 
得体の知れないオイラのことを嫌っていたらしく 
まったくなついてくれませんでした 

ちょっと近くに寄ったでけで 
「シャ~~~っ!」 
と威嚇されるのがしょっちゅうでした 

責任感の強い子だったので 
年下の猫たちの面倒をよく見ていましたし 
何よりもうちの母親を守らねばならない 
という気持ちがあるみたいで 
オイラのことを警戒していたのだとおもいます 

そんなぽんちゃんが 
オイラは大好きでした 



何かしらの締め切りをかかえているのが常なオイラは 
実家に帰っても夜中になると原稿に向かいます 

その場合は 
作業をするのは一階の居間になるのですが 
そこはぽんちゃんの夜中の定位置でした 

ぽんちゃんはうっとうしい奴が来たなという 
あきらかに迷惑そうな表情をするのですが 
しかしその場をはなれずに 
微妙な距離感を保って 
背中を向けて寝転がっていました 



原稿を書いていると 
興奮したり落ち込んだり 
いろんな気分になるので 
独り言が多くなります 

はっと割れに帰ってぽんちゃんの方を見ると 
微動だにしないで横たわるぽんちゃんがいつもいました 

そこでオイラは 
「ぽんちゃん、ありがとうね」とか 
「ぽんちゃん、ごめんね」とか 
「ぽんちゃん、おふくろを頼むね」とか 
「ぽんちゃん、愛してるよ」とか 
あまり何も考えずに 
てきとうなことをぽんちゃんに向かって 
話しかけていました 

ぽんちゃんは振り向きもせずに 
ちょっとだけしっぽを動かして 
薄目を開けて寝たフリをしていました 



そんな関係が十数年つづいたある日 
忘れもしない去年の正月のことですが 
写真詩集「メオトパンドラ」の締め切りを数日後に控えて 
かなり焦っていたオイラは 
いつものように実家の居間で 
ウンウンと唸っておりました 

ほぼ書き上げているのに 
何かが足りない 
ほんのちょっとしたことのような気がするんだけど 
それがわからない 
何も浮かばない 

おもわずオイラは 
「ぽんちゃん、どうしよ~」 
「ぽんちゃん、こわいよ~」 
「ぽんちゃん、逃げたいよ~」 
と、ぽんちゃんに向かって弱音を吐いていました 

すると 
ぽんちゃんの背中が 
ピクっ 
と動きました 



なんだか 
オイラに”がんばれよ”と 
励ましてくれているような感じがしました 

「ぽんちゃん、おれ、できるかな~」 
ピクっ 
「ぽんちゃん、おれ、負けたくない」 
ピクっ ピクっ 
「ぽんちゃん、おれ、やらなきゃ!」 
ピクっ ピクっ ピクっ… 

気がついたら原稿が仕上がっていました 
死に物狂いで集中したので 
何がどうしてそうなったのかは 
細かく思い出すことはできないのですが 

ただ、ぽんちゃんの背中の 
ピクっ 
から、一気にオイラにスイッチが入ったことだけは 
いまでも鮮明に覚えています 

オイラにとってそれは 
奇跡が起きた瞬間でした 

そしてその奇跡はさらにつづいたのです 



なんと翌日から 
ぽんちゃんが 
オイラになつきはじめたのです 

オイラにマッサージをせがむようになったり 
オイラが風邪をこじらせると 
心配そうに寝床のそばでずっと見守ってくれたり 
何よりもオイラを見つめる眼差しが 
すごくやさしかったです 

それはやはり 
あの夜中の正月の居間で 
いっしょにメオトパンドラをつくり上げた 
ある種の戦友に 
ぽんちゃんとオイラがなれたからだとおもいます 

メオトパンドラは夫婦がテーマの一冊ですが 
描きたかったのは一対の魂と魂の交流の拡がりでした 
そういう意味ではこの本は 
ぽんちゃんとオイラの物語なのかも知れません 



最後に会ったのは今年の6月 
ぽんちゃんが亡くなる一ヶ月前でした 

すでに病いを抱えていたぽんちゃんは 
やせ衰えて毛並みに艶がなくなっていました 

生後八ヶ月のうちの息子が 
はじめて猫という生き物を認識して 
うれしそうにぽんちゃんの鼻先にふれましたが 
ぽんちゃんは怒らずに 
静かにそれを受け入れてくれました 

真夜中の居間で 
オイラが放った言葉たちを 
いつも受け入れてくれたように 



言葉には不思議なおもしろい力があります 
放ちつづければ意外なところに届いたり 
受けとめつづければ想いもよらぬ境地に至ったり

そうかんがえると 
ぽんちゃんと過ごした夜中の15年間は 
ふたりにとっての詩のオープンマイクだったのかも知れません 

さあ、また、新たな幕がひらきます 

それぞれが 
それぞれの 
独り言を持ち寄って 
出会いましょう 

「ぽんちゃん、見ててね?」 


ピクっ 




* 



tamatogi 2017 
~ 秋の詩のオープンマイク祭り~ 



2017年10月22日(日) 
開場/17:00 開演/18:00 


◇ゲスト 
大島健夫 
(東京「SPIRIT」、千葉「千葉詩亭」主宰) 
河野宏子 
(大阪「ことぶき!」主宰) 
三原千尋 
(名古屋「詩のあるからだ」主宰) 

◇MC 
桑原滝弥 
イシダユーリ 

◎詩のオープンマイク参加者募集! 
詩の朗読、及び、詩的パフォーマンスをされる方なら、誰でも参加可能。 
制限時間一人(組)4分間。自作他作不問。 
音源(CDソフト対応、USBは再生機器持参の事)使用可。 
楽器(セッティングに長時間掛からないもの)使用化。 
当日開場時17:00~エントリー受付。 
※もちろん観覧のみのお客様も大歓迎です。 


◇料金 
2000円(ドリンク代別途) 

◇お問い合わせ 
詩人類 (桑原) 
TEL:090-8545-2708 
takiyakuwahara@yahoo.co.jp 
http://shijinrui.blogspot.jp/ 


◇会場 
『新世界』 

〒106-0031 
東京都港区西麻布1-8-4 三保谷ビルB1 
TEL:03-5772-6767 
info@shinsekai9.jp 
http://shinsekai9.jp 

都営大江戸線、地下鉄日比谷線「六本木駅」2番出口より、六本木通りを西麻布方面へ徒歩8分、六本木通り沿い。 
渋谷駅より、都営バス六本木方面「六本木六丁目」停留所下車、六本木通りを西麻布方面へ徒歩1分、六本木通り沿い。 



☆詩のオープンマイク”tamatogi”とは… 
桑原滝弥とイシダユーリの二人の詩人主宰による、参加者が詩だと感じる表現なら形式は問わない自由度の高いオープンマイク。 
主宰二人が醸し出すイベントの雰囲気が評判を呼び、これまでに有名無名を問わず、さまざまなジャンルや地域や意識を持つ人々がエントリーして、たくさんの交流が生まれている。 また、観覧のみを楽しむ観客が多いイベントであることでも知られている。 
今回は、全国各地の詩のオープンマイク主宰者をゲストに招いて、 ライヴで感じる詩の面白さ・こわさ・可能性を追求する。 


【ゲスト・プロフィール】 

大島健夫 takeo oshima 
詩人。 1974年千葉生まれ。 2007年、「詩のボクシング」神奈川大会出場を機に詩の朗読を開始。2014年、24時間ワンマン朗読ライヴ完遂。ポエトリースラムジャパン2016優勝、パリで行われたW杯で準決勝進出。ベルギー、イスラエルなどの詩祭やポエトリースラムにも出場。 
<主催オープンマイク①>東京『SPIRIT』 毎月第一月曜日、渋谷”RUBY ROOM”にて開催中。 
<主催オープンマイク②>千葉『千葉詩亭』 毎偶数月第三日曜日、中央区登戸”TREASURE RIVER BOOK CAFE”にて開催中。 
http://www1.odn.ne.jp/goingthedistance/ 

河野宏子 hiroko kohno 
詩人。大阪生まれ。2003年頃より朗読を始め、関西を中心に、日本各地、及び、海外(パリ、ニューヨーク)のステージに立つ。詩の情報ZINE「PAPERDRIVE」編集長。オープンマイク「ことぶき!」主催者。ポエトリースラムジャパン大阪大会主催者。2013年より母親。 
<主催オープンマイク>大阪『ことぶき!』 毎月第三日曜日(変更の場合あり)、谷町九丁目”ライヴ喫茶亀”にて開催中。 
http://ameblo.jp/poetrymarking/ 

三原千尋 chihiro mihara 
朗読詩人。1984年愛知生まれ。2009年朗読活動開始。以来、新宿スポークンワーズスラムやポエトリースラムジャパン等のマイクバトル、ライブイベント、オープンマイクで武者修行に励む。等身大の愚痴をストレートな言葉と音楽的な緩急で客席に投げかける自称「あるあるネタ詩人」。 
<主催イベント>名古屋『詩のあるからだ』 毎月第二水曜日、八事”ポップコーン”にて開催中。 
https://twitter.com/ametotaiyo 




いざ、自己表現の向こう側へ… 

ひとりで来て、 
ひとりで帰っても、 
ちゃんと何かと繋がるポエトリーイベント 

今年も開幕∞